中上健次「岬」を読んだ
枯木灘を最初に読み、こちらを後から読んだ。枯木灘の印象が変わったような気がしたが、もうよく覚えていない。田舎と父と性を扱った小説として比較するなら、宮本輝の「螢川」の方が洗練されてて好きかな。
とりあえず、マチズモの話はやめよう。毎日パンツ一枚で腕立て腹筋、男を見たら筋肉量で優劣を決める、射精でエピファニーする小説。そこから離れる。
家族の崩壊が繰り返し描き出される。父とは絶縁状態。兄*1は自死。姉の1人は精神が不安定で、残りの姉は不在。義父との関係は希薄。義兄*2からの好意も彼は拒んでいるように見える。そして姉の夫の親族内で起きる(動機不明の)殺人事件を機に、姉が再び不安定化する。その姉を救いたいといいつつ、彼は嫌悪する。
彼はその家族から逃れられない。母は一度、彼以外の子を捨てようとした。父は絶縁された。姉らは故郷を離れた。近くで暮らす姉もまた、踏切に飛び込もうとする。
だが彼の頭に、故郷を離れることは浮かばない。全ての元凶であるとされる父の視線を土地にいる限り感じ、自分の身体と顔つきに混じる父の血を嫌悪しつつも。*3
タイトルの「岬」、姉らの父の墓地のある岬は、外部世界へと突き出る衝動、つまり男根のメタファーようでいて、その外部の不在を象徴している。
岬から山にあがったこの墓地に葬られている人々は、昔から、水は、雨水を飲み、海がすぐ目と鼻の先にあるのに船を着ける湾がなく、漁も出来ずに、暮らした。山腹をひらいて畑を打って暮らしたのだった。母はそう言った。
家族は彼を失ったら崩壊する、家族を救いたい、と彼は考えている。一方で、嫌悪の感情は折々に生じる。しかし、何から救うのだろう。母には夫がいて、義父には息子がいる。姉らにも全て夫との安定した生活がある。不安定な姉も、夫に扶けられながら生きている。親族の生活は、古市の死によって多少揺らいだものの、まったく不安定ではない。
彼だけが不安定な立場に立たされ、父の血にイラつかされている。 土地にいるかぎり父の気配は消えない。一方で土地の外部世界はなぜか遮断されている。
その鬱血が彼を腹違いの妹との近親相姦へと導く。閉じた土地にふさわしい、外部をもたない倒錯した射精衝動。そうして土地の内部循環に、暴力的な地と血の世界へと取り込まれてゆく。
※ 半分くらい妄想で書いています。